ソーコ夜話㉗『枯山水ではないけれど』
November 19, 2019
写真は 品川ENTREPOT の床。ある個所では渦のように急に、またある個所ではゆるやかに。グレーと黒が織りなす波紋のような曲線は、モダンな枯山水を思わせる。
「ジャパネスクにかぶれたヨーロッパのフランス人デザイナーが仕上げました」
見る者にそんなストーリーを思い起こさせるこの床の曲線。フランス人デザイナーが仕上げたものでもなければ、枯山水を意図したものではない。それどころか、デザインされてもいない。Pタイルを貼るのに使われたボンドが固化し、タイルを剥がした後にはじめてあらわれた、美しい曲線。そもそも見せることさえ、意識していないのだ。
波紋を形づくっているすじは、ボンドを延ばすために使ったクシベラの跡。よく見ると、クシベラはほとんど1回しか引かれていない。この職人は、同じ個所で何度もボンドを延ばすような素人ではない。均一に、はみ出さないように。右から左へ、左から右へと、素早くボンドをならしていく。クシベラを軽快にさばく、職人の慣れた手つきが目に見えるようだ。その手が動くたびに、床に美しいすじが引かれていく。
この枯山水は、見せるためにつくられたものではない。施工した職人も、自分の引いたボンドの跡が数十年後に見られているばかりか、部屋の印象を決定づける重要な要素になるなどとは思いもしなかっただろう。しかしその美しい仕上がりは、鑑賞に値する。その丁寧な仕事は、敬意を払われるに値する。
リノベーションは時に、思わぬ作品を発掘する。
久保純一(ロジスティクス・トレンド)