ソーコ夜話⑩ 『輪転機と誇り』

January 15, 2018

 

輪転機。大量の紙に高速で印刷できるため、新聞の印刷などに使われてきた大型の印刷機の一種。

しかし輪転機と聞いてその姿をイメージできるだけの知識が、我々一般人には圧倒的に足りない。新聞社の地下にある、 品川 地下輪転機スペース 。ここではその輪転機を間近に見ることができる。巨大な印刷機のなかに入り込めるといえば、より正確かもしれない。

地下2階相当の深さから地上2階に達する室内は、まさに印刷のためだけの空間だ。頭上はパイプで覆われ、床には搬送機のレール。レバーやボタンが並ぶ操作卓には、連絡用だろうか、受話器がガムテープで固着されている。人の移動のための階段やキャットウォークは、機器の合間に申し訳程度に。そして中央に据え置かれた輪転機の、重量感をともなう存在感。稼働時はどれほどの音がしたのだろうか、壁には「耳栓着用」の注意書きが貼られたままだ。

しかしいま、室内は静まり返っている。1990年から20年間、休むことなく新聞を発行し続けてきた設備が稼働することはもうない。居並ぶ輪転機が稼働する音を聞くことは、もうできないのだ。

室内は今も、インクとオイルの香りが漂う。そして蛍光灯の無機質な明かりのなかに佇む輪転機の周囲には、印刷オペレーターたちの痕跡をいまでも見付けることができる。筆者が見たのは、この輪転機が稼働を終えるにあたって開催された式典の張り紙と、特別に発行された新聞。そこには、長年新聞発行を支えてきた彼らを讃える言葉が綴られていた。

輪転機が置かれたメカニカルな地下空間は、それだけでじゅうぶん格好いい。でもここが、誇りを持って仕事に励んできた人々の職場であったことを思うとき、その格好よさはさらに増す気がするのです。

 

久保純一(ロジスティクス・トレンド)

 

 

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