ソーコ夜話㉔『アネモ』
May 21, 2019
写真は、天井に取り付けられた円形の吹き出し口。平成はじめくらいまでに建てられたビルではよく見られたが、昨今はあまり見かけなくなった。ラッパの先端のような漏斗状のフィンが幾重にも重なったこの形は、空調効率を考えた結果だろう。見ていると、調整された空気が波紋のように広がる様が想像できる。
写真は 田町 五色橋ビル のもの。フィンがきれいな同心円を描いているが、実はこのフィンは可動式。冷房時にはフィンを下げて風が水平方向に吹くように、暖房時には押し上げて風が下向きに吹くように、手動で調整する必要があるのだ。しかもこれ、基本的にセントラル空調でしか使えない。個別空調が主流となった昨今、見かける機会が減ったのはやむを得ないのかもしれない。
このカタチの吹き出し口には名前があって、アネモスタットという。通称はアネモ。名前はメーカー名に由来するそうだ。夏の日のデパートで、アネモの下に立つと涼しい風にあたれることに気づいた筆者は、よく天井に並ぶ同心円の下をたどって歩いたものだ。しかし本来なら冷房時には風が水平方向に向かい、真下には吹かないはず。筆者の思い出は、誰かが調節を怠ったおかげのようだ。
田町 五色橋ビル のフロアは約1300㎡。広大なフロアのなか、誰にも邪魔されることなくアネモの下を歩いてみる。そんな機会、めったにあるものではない。
久保純一(ロジスティクス・トレンド)