ソーコ夜話⑯『予期せぬ高潔』

August 15, 2018

 

近年もっとも建物の耐震がクローズアップされたのは、東日本大震災の直後だろう。制震や免震、新耐震・旧耐震といった言葉が一般化し、あちこちのビルで耐震化工事がすすめられた。そこで都市の景観に突如として加わったのが、後付けの耐震ブレースだ。

ブレースとは筋交い(すじかい)のことで、一般的な耐震ブレースは建物の柱と梁に密着させて設置した枠と筋交いからなる。建て替えよりもローコストな耐震性能向上手段として、今日まで多用されている。

しかしこの耐震ブレース、あらわれた頃は「邪魔だ」「ビルの美観を壊す」と否定的な意見が大多数を占めた。特に室内に取り付けられたものは窓をふさぎ、通路をふさぎ、圧迫感を醸す。そのうえ有効容積が減ってしまうのだ。役割から装飾性は一切なく、耐震という役割さえなかったらすぐにでも取り外したい、そんな存在である。いや、その鉄骨むき出しの無骨さが格好いいのではないか、というのはまた別の話。

で、写真である。耐震用に後からつけたものを、壁の中に埋め込んだのだろうか。左右からななめに伸びるブレースが窓の上部を三角形に切り取り、なんだか教会の窓のようなカタチになっている。撮影したのは 大島 城東センター。かなり大きなブレースが入っているようで、その厚みがアルコーブになっている。

ブレースを設置する際はできるだけ開口部を塞がないよう気を配るものだが、ここでは壁の中に埋め込み、窓を塞いででもブレースの露出を拒んでいる。こんなブレースの「見せ方」もあるのだ。

夏の午後。日差しがアルコーブに当たって天井に反射し、室内の暗さを際立たせる。この景色から感じる一種の高潔さは、建物を守るブレースだからこそ生み出し得たのだとしたら、どうだろうか。

 

久保純一(ロジスティクス・トレンド)

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