ソーコ夜話⑮ 『8』
July 19, 2018
8である。
この8があるのは、WAREHOUSE Shibaura 8階のエレベーターホールの床。8階だから8である。
田町 CONTAINER を擁するこの8階は、倉庫っぽくリノベーションされた空間がフロア全体にひろがる。床は貼ってあったPタイルを剥がしただけの荒い仕上げ。一見雑な感じだが、ボンドの跡や床に移ったタイルの色合いは技術で再現できるものではない。タイルの色が床に移るなんて、はじめて知った。この床を見てしまうと、エイジングやクラッキングはその意味を失う。長い年月を経たからこそ可能な、素材を活かした仕上げだ。
他の階で確認したところ、このタイルのもとの色は海老茶系のマーブルの地にアイボリーの文字。きれいにタイルを切り取って文字をつくっており、よく見ると文字と地の繋ぎ目にはまったく隙間がない。曲線もスムーズで、なにより書体がかわいい。
Pタイルを切り抜いて文字をつくるなんて、このビルのほかには見たことがない。曲線を切ることができるPタイル用のカッターも、見たことがない。地と文字の繋ぎ目に隙間がないということは、カッターの刃の幅まで計算にいれて切ったのだろう。まぎれもなく、職人さんの技術の勝利である。こんな手の込んだことができる職人さんがいた、その証しとして貴重なものだ。
かつて腕利きの職人が仕上げた作品を活かし、新たな魅力を付加させる。リノベーションのおもしろさの実例が、ここにある。
久保純一(ロジスティクス・トレンド)