ソーコ夜話③『倉庫、アジト向き』

May 22, 2017

芝浦アジト

 

倉庫には様々な使い方がある。本来の、そしてもっともポピュラーな使い方は荷物の保管に仕分けや梱包といった物流用途だが、最近ではスタジオやイベント会場、オフィスや店舗として使われる例も増えてきた。変わったところでは、敵性国の領事館前に目隠し(あるいはいやがらせ)のために建てられたなんていう倉庫もあった。だがもうひとつ、忘れてならない倉庫の使い方がある。アジトだ。

今から30年も昔の刑事ドラマでは、刑事はもっと命がけだった。相手は銃器を保持し官憲と一般市民とを問わず殺意をもって発砲するような凶悪犯たち(たいてい集団行動)。彼らが作中「犯人」や「容疑者」ではなく「敵」と呼ばれるところからして、ただの犯罪者扱いされていないことがうかがえる。彼らのような強大な悪意をくじくには、逮捕などという生ぬるい手段は適当ではない。こちらも銃器を用い、ただ倒すのみである。

そんな彼らが潜伏しがちな場所。それが倉庫だ。木箱や木製パレットがちらかった一画に置かれたスチール家具とソファ。そこにたむろする手下たち。薄暗い倉庫の奥深く、罠を張って最後の戦いに挑むボス。無骨な鉄骨の柱に荒縄で縛られた人質。薄暗く、町から離れ、人目につかない。しかも格好いい。こんな場所を活用しない悪党は悪党ではない。倉庫はかつて、悪党の嗜好を満たす要素を余すところなく備えていたのである。

ところが昨今の倉庫は明るく健全だ。降り注ぐ日の光を浴びて立つ巨大なコンクリートのかたまりを見て、白いスーツとボルサリーノで決めたトラディッショナルな悪漢が悪事への欲求をかきたてられるだろうか。到底、そうは思えない。では今、倉庫内にアジトをつくるとしたらどんな設えになるのだろうか。

芝浦AZITO は、その問いに対する答えのひとつ。「倉庫マニアのための未来的秘密基地」をコンセプトにした、かつて隠れ家にあこがれた大人のための空間だ。南向きの窓から光が差し込むビルの8階という明るく健全な雰囲気だが、大人の“悪だくみ”に適しているという点でやっぱり立派なアジトである。倉庫のもつネクラな雰囲気をオシャレに変換というとすごく難しく思えてしまうが、オタクとヤンキーの意気投合、というとしっくりくるから不思議だ。倉庫のあやしい空気感を再現しつつ、インダストリアルな魅力も感じさせるあたりが今っぽい。

こんなアジトにこもる奴らを、もはや敵とは呼べません。

 

久保純一(ロジスティクス・トレンド)

 

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